医用画像を用いた診断は正確さを求めるという観点から、CT(コンピュータ断層撮影)画像などを用いて、医師が読影作業をすることで進められていますが、画像の精細化などの技術の発展により診断にかかる負荷は日増しになっています。これらのプロセスを自動化していくことが可能になると病気の早期発見などの治療に貢献できます。医療画像解析プロジェクトでは、画像診断プロセスのモデル化を進めていきます。
眼底写真からの眼疾患予測
知能行動情報学研究室では、医用画像を用いた深層学習研究の中でも比較的研究初期から取り組まれた眼底写真を使った研究に取り組んでおり、京都大学医学部附属病院眼科と連携して研究を進めています。眼底写真は、網膜疾患を含む様々な眼疾患の診断に広く用いられています。特に糖尿病性網膜症や加齢性黄斑変性症、緑内障などの早期発見と診断には重要な役割を果たしています。
近年、深層学習や機械学習の進歩により、眼底写真を用いた自動疾患検出や予測研究が盛んに行われています。特に、大量の眼底写真データセットを用いて訓練された深層学習モデルは、人間の専門家と同等またはそれ以上の精度で疾患を検出することが報告されています。
この分野の先駆けとなった研究の一つは、Googleが開発した深層学習アルゴリズムを用いた糖尿病性網膜症の検出です。この研究では、大量のラベル付き眼底写真データセットを用いて訓練されたアルゴリズムが、眼科医と同等の精度で疾患を検出することが実証されました。
眼底写真を用いた眼疾患の予測研究の意義は大きく、初期段階での疾患検出により、治療の成功率を高め、視力低下の防止に繋がる可能性があります。また、この技術は、地域社会や開発途上国における医療アクセスの問題を緩和し、眼科医療の普及に寄与すると期待されています。その一方で、このようなAI技術の適用には、プライバシー保護や正確性、バイアスの問題など、倫理的な課題にも配慮が必要となります。
深層距離学習の適用
近年の深層学習モデルの開発は、大規模なコンピュータリソースを準備することが必須になってきています。正直、Googleなどの大企業が用意する巨大な計算機設備を用いた研究に真っ向から立ち向かうことはなかなか厳しい状況であると言わざるを得ません。本研究室では、どちらかというと、少し変わったアプローチからモデルの構築に取り組むことでユニークな成果が出せないかという観点から研究に取り組んでいます。
「深層距離学習」は、機械学習の一分野であり、特にデータの「類似性」または「距離」を捉えることに焦点を当てています。深層距離学習は、深層学習の一部であり、ニューラルネットワークを使用して複雑なパターンや特徴を自動的に学習します。深層距離学習の主要な応用分野は、顔認識、画像検索、異常検出、推薦システムなどです。これらのタスクでは、データ間の類似性または距離を精度良く計算することが必要となります。たとえば、顔認識のコンテキストでは、深層距離学習は、異なる画像に存在する同じ人物の顔を認識するために使用できます。これは、学習された特徴空間において、同一人物の異なる画像間の距離が小さく(つまり類似性が高い)、異なる人物間の画像の距離が大きく(つまり類似性が低い)なるように特徴抽出器(一般的には深層ニューラルネットワーク)を訓練します。
深層距離学習の一つの典型的な手法は「Triplet Loss」です。これは、一つの「anchor」(基準)サンプル、一つの「positive」(基準と同じクラスの)サンプル、そして一つの「negative」(基準と異なるクラスの)サンプルからなる3つ組(トリプレット)を用います。Triplet Lossの目標は、anchorとpositiveの間の距離を小さくし、anchorとnegativeの間の距離を大きくすることで、データ間の適切な距離関係を学習します。
こうした深層距離学習の手法は、高次元で複雑なデータ構造を持つデータ(特に画像や音声など)に対する認識や検索タスクにおいて、パフォーマンスを大幅に向上させることができます。
知能行動情報学研究室では、この距離学習の技術を医療に適用することで、医師が頭の中に描くような眼疾患の距離マップを学習によって得られないか試みています。
提携
本研究プロジェクトは以下の科研費の元、実施されていました(科研費は切れましたが、引き続き、実施していきます。)
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多角的アプローチによる加齢黄斑変性とパキコロイド新生血管の病態解明
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B) 2020年4月 - 2023年3月
三宅 正裕, 辻川 明孝, 杉山 治, 山田 亮, 長崎 正朗